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被相続人が被後見人だったとき、言い換えると、被後見人が亡くなった後の手続きの流れはどのようになるでしょうか?
なお、ここでは、成年後見人、保佐人、補助人を総称して後見人等と呼ぶことにします。また、成年被後見人、被保佐人、被補助人を総称して、「被後見人等」と呼ぶことにします。
※以下記載する内容は、東京家裁の管轄下における後見人等の活動を前提としており、他の家裁の管轄下では、異なる流れになる可能性もあります。
被後見人等の生前、ほとんどの場合は、後見人等が被後見人の財産を管理しています。
後見人等は、ご本人がご存命であることを前提に、その代理人として行動しています。被後見人等の代理人である以上、ご本人が亡くなると代理権も消滅し、後見人等が被後見人等の財産を管理する根拠もなくなります。
そうはいっても、亡くなってすぐに何もできなくなるというのでは不都合があるので、後見人等は、被後見人等が亡くなった後は、財産引継や報告に向けた財産の計算をするとともに、死後事務許可の申立てにより認められた行為または「事務管理」としての必要最小限の行為をすることになります。
なお、成年後見人には、死後事務許可の申立てを行う方法がありますが、保佐人と補助人にはそのような制度はなく、あくまで、事務管理として死後事務を行うことになります。
必要最小限とはどんなことなのか、突き詰めていくと難しいのですし、後見人等により対応が分かれる部分もあるのですが、後見人等として財産を管理する根拠がなくなっている以上、基本的には、できるだけ「後見人等だった者」として行う行為を少なくして、相続人に財産を引き継ぐのが望ましいのは間違いないと思います。
ただ、そうは言っても、原理原則に忠実すぎると、実務上問題が生じたり、結局、相続人に迷惑をかけるということになりかねない場合もあり得ます。少なくとも私は、誰の目にも明らかで相続人から疑義が出ないような債務(例えば、定期的に発生している特養の利用料や入院費など)の支払いは問題ないと考えます。
それでは、後見人等は、相続人に財産を引き継ぐまで、どのようなことを行うのでしょうか?
まず、被後見人等が亡くなった場合、家庭裁判所に、亡くなった旨を電話で連絡することになります。
場合によっては、この段階で、死亡診断書等をFAXしたり、郵送するようなこともあります。前述の死後事務の許可申立てを行うときや事務管理について裁判所に連絡票を提出するような場合には、死亡届や死亡診断書を添付のうえ、死亡の報告をしてしまったほうがよいのではないかと思います。
余談ですが、死亡届は診断書と併せてA3用紙に印刷されているのが一般的ですが、裁判所にはA3の用紙をFAXすることはできないので、死亡届のみをAで送ることになります。
被後見人等が亡くなったという連絡をすると、家庭裁判所から後見人等に向けて、郵送で案内が届きます。案内には、家庭裁判所に、ご本人が亡くなった記載のある除籍謄本か死亡診断書の写しを速やかに提出するように書かれています。また、東京法務局に成年後見(保佐、補助)の終了の登記をするようにとも書かれています。
それと同時に、管理の計算をし、相続人に財産を引継いだうえで、相続人から「引継書」を受領して家裁に提出するようにということも書かれています。この引継書の提出が、後見業務のゴール(終了時期)となり、後見人等は、この「引継書」の提出に向けて、行動することになります。
さて、家庭裁判所に被後見人等が亡くなった連絡をして以降、後見人等は、おおよそ、次の三つのことを並行して行うことになります。
三つのこととは、預かっていた資産の管理計算、相続人の調査、裁判所から許可が出た死後事務や事務管理として行う死後事務です。
預かっていた資産の管理計算ですが、実は、多くの後見人にとってさほど難しいことではありません。なぜなら、普通に業務を行っている後見人であれば、毎日とはいかないまでも、日常的に出納帳をつけているし、一年に一回は家庭裁判所に定期報告をしているので、亡くなったからといって、ため込んでいた財産管理をいっきに行うというような必要はないからです。
相続人の調査は、非常に簡単な場合と、かなりの時間を要する場合があり得ます。
被後見人の生前から、推定相続人である親族と交流があったような場合、調査するまでもなく、相続人が誰かわかります(ただし、親子や配偶者ならともかく、兄弟姉妹の場合、戸籍をきちんと調べる必要があります)。
あるいは、遺言があり、遺言の存在及び内容(遺言執行者が誰か等)が分かっている場合にも、調査はあまり必要ありません。
一方で、子や配偶者がいない場合で、かつ、被後見人等の生前に相続人との交流がなかった場合、非常に時間を要する可能性があります。兄弟姉妹の相続で、かつ、代襲相続が発生している場合などは、存命の相続人に行きつくまでに時間がかかる可能性が高いです。
ただし、あとでも触れますが、後見人等が相続人に財産を引き継ぐ場合、相続人全員に対して引き継がなくてはならないとか、誰に引き継ぐかについて全員の同意が必要であるといったことはなく、相続人の誰かに引継げればよいので、相続人全員を確定する必要まではなく、引継いでもらえる相続人を一人でも見付ければよいということにはなります。
相続人が見つかったら、財産引継ぎに応じてくれるのかを確認しておく必要があります。また、誰かに引継ぐことに強硬に反対する人がいる場合にも、そのことに留意しておく必要があります。
死後事務は、前述のとおり、裁判所の許可を得て行うか、事務管理として行うかになりますが、いずれにせよ、あくまで、被後見人等(本人)の死と同時に、後見人としての職務は終了するという原則に反しない範囲でのみ行うことになります。
預かっていた資産の管理計算、相続人の調査、死後事務という三つのことにめどが立ったら、家庭裁判所に終了報告を提出するとともに、報酬付与申立を行うことになります。死後事務については、めどが立たなくても種るよう報告をしても構いませんが、死後事務にめどが立たないうちに報酬付与の申立てをすると、死後事務の内容が報酬に反映されない可能性が生じかねません。
この終了報告や報酬付与申立は、通常の定期報告の際に行うものと全く同じものですし、添付する資料もまったく同じです。
ただし、財産目録は後見終了時=死亡時のものとなります。添付する通帳も死亡時までの記載があるもので足りるのが基本です。逆に言うと、少なくとも裁判所には、財産引継時の財産状況を報告する必要はないということになります。
なお、ここでは、便宜上「終了報告」という言葉を使いましたが、少なくとも、東京家裁の場合、家庭裁判所から送られてくる書類に「終了報告」というような文字は書かれていません。
また、報酬付与の申立を行わない場合、引継書を送付すれば足り、「終了報告」自体、不要のようです。あくまで、「終了報告」時の財産目録をもとに報酬を決める必要があるために、報告が求められる扱いになっているようで、報酬がいらないのであれば、引継ぎだけ行えばよいということだと思われます。
それはともかく、専門職が後見人等になっている場合、報酬付与を申立てないということはないと思いますので、「終了報告」は必須のものとなります。
報酬付与の申立をしてしばらくすると、報酬付与の審判が出ます。この審判書に記載されている金額をご本人の財産から受領し、その残りを相続人等に引き継ぐのが基本です。それゆえに、終了報告と報酬付与の申立は、財産引継の前に行われるのが一般的なのです。
報酬の受領が済み、事務管理等による支出も終わると、引継財産が確定します。その前後に、相続人の方と日程調整をして、しかるべき日時に、財産の引継を行い引継書を受領することになります。
家庭裁判所には、家裁所定の引継書(前述の家裁からの案内文書に同封されている)を提出するのですが、この「引継書」の記載は非常に簡便なものです。単に引継を受けた事実しか記載されておらず、何の引継を受けたかは全くわからない形式になっています。これでは、何の引継ぎをしたかわからず、後々のトラブルを防げない可能性もありますし、私が所属するリーガルサポートへの報告には使えないものなので、通帳やカード等、何を引き渡したのかと残金はいくらなのかを明確にした引継書を別途作成し、受領するようにしています。
相続人等から、引継書の受領を受けたら、その引継書を家裁に郵送して、後見人等としての業務の全てが終了することになります。
相続人に財産を引継ぐと、当たり前のことですが、被後見人等の財産は、後見人等のもとから離れることになります。
ただ、後見人だった専門職に、続けて遺産承継業務(相続手続全般)を行ってほしいというニーズもよくあり、結果として、また、後見人だった人のもとに相続財産が戻ってくるということも珍しくないです。
しかし、遺産承継業務を後見人だった人に任せる場合でも、別途、遺産承継についての委任状(委任契約書)が必要になります。
後見人だった人に、被後見人であった被相続人の遺産の管理や遺産の名義書き換えをする権限は全くないし、あるはずもないからです。勿論、後見人だった人は、被相続人の財産を把握しており、そのような人物に遺産承継の手続きを任せることには一定の合理性があるし、そのこと自体に問題はないことは事実ですが、新規に委任契約が必要なので、充分ご注意ください。
相続人が財産引継ぎに応じてくれる場合には、手続きは割とスムーズに流れていきます。早いときは一か月かからずに引継書の提出まで進みますし、相続人の調査に手間取ったとしても、数か月で引渡しが完了すると思われます。
もし、相続人が誰かわかっているのに、引継ぎに応じてくれず、そのことについての明確な説明がないというようなトラブルがあった場合、早目に、後見人等が所属する団体に相談したほうがよいと思われます。
一方で、相続人が引継に応じてくれなかったり、相続人と連絡が取れなかったり、何らかの理由で相続人への財産引継ぎが困難な場合、後見人等としては、非常に困る事態になります。
誰も受け取ってくれないからといって、何の権限もなく、永遠に他人の財産を管理し続けるわけにはいきませんから、何らかの対応が必要になってきます。
それでは、以下、場合分けをして、どのような対処が考えられるか見ていきたいと思います。
まず、相続人はいるけれども、相続人が財産引継に応じてくれないというような場合を考えてみます。
このような事例をさらに場合分けすると、相続人と連絡は取れるけれども引継に応じない場合と、連絡さえつかない場合があり得ると思います。
連絡がつかない場合にも、どこにいるか分からないというレベルから、どこにいるかはわかるが連絡がつかないというレベルまであると思います。ここでは、どこにいるか分かるのであれば、連絡がつくと考えることにします(極端な話、家に行けばいいわけですから)。
何らかの形で相続人と連絡が取れるなら、何とか財産を引き継いでもらえるよう説得すべきであると思います。仮に引き継がなくても、そのままでは義務を引き継いでしまうので、状況によっては、相続放棄をしないと義務を相続することになってしまうことを説明すべきであると思います。その結果、相続人が放棄を検討するのであれば、その相談に乗るということも必要ではないでしょうか。
相続放棄もせず、財産引継ぎにも応じないというような場合、ひとつの方法として、918条2項に基づく相続財産管理人選任の申立てをし、相続財産管理人に財産を引き渡すという方法があります。
専門職が後見人をしていた場合、その専門職が相続財産管理人になることが多いと思いますが、そのように、元後見人が相続財産管理人にスライドしたような場合、相続財産管理人選任の審判をもって、後見人の業務は終了します。このような場合は、相続財産を誰かに引き継ぐことなく、同じ人が相続財産を持ち続けているわけですが、元後見人が何の根拠もなく相続財産を保持しているという状態から、相続財産管理人が相続財産を管理するという権限に基づいて保持する状態になるという違いがあります。
この相続財産管理人には、報酬が発生します(正確に言うと、報酬付与の審判を申し立てることができます)。報酬が発生するということは、相続人側から見ると余分な費用が発生することを意味するわけで、前述の、財産引継ぎに応じるように説得する場合の説得材料として、引継ぎに応じないと余分な費用が発生することをご説明して、なんとか引継ぎに応じるようお話をすることになります。
ところで、民法918条2項に基づいて選任された相続財産管理人は、一般的に考えられている相続財産管理人とは権限が違うので注意が必要です。
(相続財産の管理)
第918条
1 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
2 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3 第27条 から第29条 までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
民法918条2項を見ても、「相続財産管理人」という言葉は書いてありません。民法918条2項の「相続財産の保存に必要な処分」のひとつに、相続財産管理人を選任があるのです。
相続財産管理人の選任が相続財産の保存に必要な処分である以上、民法918条2項に基づいて選任された相続財産管理人の権限は、あくまで、相続財産の保存に限られるということになります。相続人不存在の場合に選任される相続財産管理人とは明らかに権限が違うので、注意が必要です。
後見終了後に918条2項に基づき選任される相続財産管理人は、あくまで、相続人に財産を引き渡すまで、相続財産を保存する(所持している)だけの存在ということになるでしょう。後見人から相続人に引き渡す間、一時的に財産を管理する人間ということになります。
もっとも、状況によっては、その「一時的」という期間がかなりの長期間になりかねないこともあり得るのですが...。
次に、相続人がいない(すべての相続人が放棄をしたような場合も含む)場合について考えてみます。このような場合、引継ぐべき相手がいないのですから、そもそも引継ぎができないのは当然です。
しかし、だからと言って、他人の財産を永遠に保持し続けることはできません。元後見人は、財産を保持していることにつき無権限なわけですから、しかるべき権限のある人に、できるだけ早く相続財産を引き渡し、業務を終了すべきなのです。
では、どうすればいいのか?
答えは簡単です。引き渡すべき相手がいないならば、引き渡すべき相手を自ら作ってしまえばよいのです。より具体的に言うと、相続人不存在を理由に、相続財産管理人の選任を申立て、相続財産管理人に財産を引き継いでしまえばよいのです。
答えは簡単なのですが、実際には、必ずしも簡単でない場合があります。その理由は、相続財産管理人の選任にはそれなりのお金がかかるからです。
工事中
相談業務等において、後見人等(正確に言うと、後見人等であった者)が財産の引渡しをしないとか、亡くなってしばらくたつのに連絡がないなどの苦情・ご意見を耳にすることがあります。
前述のように、後見人等はその日常業務において出納帳や記録(事務日誌)をつけているので、被後見人等が亡くなったからといって、管理の計算に手間取ることはあまりありません。しかし、管理計算の結果を報告書にまとめるのは、事案によっては結構時間がかかります。
従って、死亡の連絡があったあと、2か月程度、引継ぎに至らなくてもやむを得ない面があると思われます。勿論、亡くなった段階で、引継までのどれくらいかかるのか、おおよその期間をご説明しておくべきであるとは思いますが...。
後見業務終了後に、速やかに引継が行われない場合、そのことについて、特別な事情が必要だと思われます。例えば、相続人が誰なのかについて争いがあるとか、遺言の有効性に争いがあり、遺言執行者に引き渡してよいのか相続人に引き渡してよいのか分からない場合などが考えられそうです。
しかし、例えば、単に相続人間で争いがあるという程度のことで引渡しをしないことは望ましくないと思います。というのも、相続人への財産引継ぎについて、相続人全員の同意は必須ではなく、相続人のうちの誰かに財産を引き継げばそれで足りるからです。また、誰に対してであっても、速やかに引継を行うというのが、無権限者である元成年後見人の行為としてふさわしいものであると思います。
現金を預金口座に入れるなどしてゼロにし、預金口座もすべて凍結したうえで、財産引継ぎを行えば、仮に相続をめぐる争いがあっても、相続人の一人が相続財産を横領するようなことはできないはずで、(元)後見人が善管注意義務違反等を問われることはないのではないかと思います。
勿論、争いの内容や程度によっては引渡しをしないほうがよい場合もあり得ます。しかし、そのような場合でも、引き渡しに応じられない理由をきちんと説明したうえで、家裁と相談し、元後見人として権限なく財産を預かり続けるようなことはせず、918条2項の相続財産管理人に就任するなどして、管理権限を明確にしたうえで、管理をする(引継を留保する)べきではないでしょうか。
もし、このように、引継ぎに応じないことに根拠がなかったり、充分な説明がないときは、家裁や後見人が所属する職能団体(弁護士会やリーガルサポート、司法書士会等)に相談するべきであると思います。
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