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 相続人が成年被後見人のときの相続手続

 被相続人が亡くなると相続が発生します。

 相続発生時、相続人の中に、成年被後見人がいた場合、どうしたらよいでしょうか?

 実は、このようなケースでは、成年後見人が誰かで手続が変わってきます。具体的には、

・成年被後見人だけでなく、成年後見人も相続人である場合

・成年後見人は相続人ではない場合

 まずは、成年後見人が相続人ではない場合を見ていきたいと思います。 

今回の設例

父  調布栄一郎 令和元年9月10日死亡 不動産の登記名義人

母  調布花子  存命 成年被後見人

長男 調布栄太郎 存命

二男 調布栄二郎 存命

成年後見人 司法書士 向後弘之

 このような場合、成年後見人が、成年被後見人を代理して、他の相続人と遺産分割協議を行うことになります。

 一応、法定相続分での分割(遺産分割協議を経ない分割)も考えられますが、相続財産が預金しかないとか、明確に法定相続分で分けられる場合以外は、まずは、遺産分割協議を行うものと思われます。

 成年後見人が成年被後見人ために遺産分割協議に参加する場合、注意しなくてはならないことがあります。

 まず一つ目は、原則として、法定相続分を確保する必要があるということです。もし、特段の理由もなく、法定相続分を下回るような分割協議を行った場合成年後見人は、後日、責任を問われる可能性があります。

 もう一つは、事前に家庭裁判所(家裁)に「お伺いを立てる」必要があるということです。

 「お伺いを立てる」というようなあいまいな表現を使ったのには理由があります。居住用不動産を売却する際の処分許可のように、事前に家裁の許可が必要なわけではないのです。東京の場合、連絡票を提出して、家裁から「駄目」と言われない限り、一応、遺産分割協議を行ってもよいということになります。

 家裁に遺産分割協議書(案)と必要に応じて、法定相続分を確保していることを示す疎明資料を添付して、連絡票を提出すると、家裁から「後見人の判断で行ってください」と電話で連絡が来ます。それを受けて、成年後見人自身の責任と判断に基づいて、他の相続人とともに遺産分割協議書に署名押印等を行うことになります。

 私見ですが、法定相続分を確保していなくても、確保しなかった事情を説明できれば、家裁から「駄目」と言われることはないように思います。理由が説明できていれば、「後見人の判断で」という回答になるように思います。

 しかし、このことは、家裁が法定相続分を下回る割合での分割協議を許可したわけではありません。あくまで、「後見人の判断と(責任で)行ってください」と言っているだけなのです。

 従って、家裁が「駄目」と言わなかったとしても、成年後見人が法定相続分を下回る割合での分割協議をしてしまった場合、後日、成年後見人としての責任(善管注意義務違反)を問われる可能性があるのです。

 言い方を変えると、家裁に事前に資料付で「お伺いを立てる」のは、善管注意義務違反を問われる可能性を減らすためとも言えます。「許可」が必要だという法定のルールではないものの、暗黙のルールとして決まっている資料や説明付の連絡票の提出というプロセスを踏まないと、内容の如何に関わらず、善管注意義務違反を問われかねないと思われるからです。

 以上のように、法定相続分の確保と家裁への事前相談は、成年後見人が遺産分割協議を行うに際して、強く求められることだと思います。

 法定相続分を確保するということは、財産の内容によっては困難であったり、実情にそぐわない場合もあります。しかし、成年後見制度には、一定程度、本人の権利保護のために、そうした不都合を甘受しなくてはならないという側面があるのもまた事実です。

 そうならないためには、元気なうちに自分の死後の対策をしておくか、成年後見制度を開始する際に、本当に良いのか充分に考える必要があると思います。そのときになってからこんなはずではなかったと思っても、もう遅いと言わざるを得ない面があるのです。

 なお、どうしても、成年被後見人について法定相続分を確保する分割協議が実情にそぐわないという場合、ご本人の不利益にならないという大前提があればですが、遺産分割協議をせずに放置するという方法もあり得ます。しかし、いったん成年後見制度の利用が開始している場合には、放置=ご本人の不利益という側面を否定するのは難しく、成年後見人としては、善管注意義務違反を問われる可能性がどれだけあるのかも踏まえたうえで、適切な判断をすべきであると思われます。

遺産分割書の例

工事中

 

  成年後見人が成年被後見人を代理して行う登記申請書の例を見てみます。 

登記申請書(成年後見人が登記申請をする場合)

登記申請書

登記の目的      所有権移転

原因      令和元年9月10日 相続

相続人      ( 被相続人 調布 栄一郎)

  東京都調布市深大寺二丁目3番地7

  調布 花子

上記代理人      成年後見人

  東京都調布市深大寺北町二丁目29番地11

          グランパルクノース102

                    向後 弘之

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添付情報

登記原因証明情報(原本還付)    住所証明書    代理権限証書

課税明細書

令和元年10月1日申請 

東京法務局 府中支局 御中

課税価格      金20,000,000円    

登録免許税      金80,000円

その他事項   送付の方法により登記識別情報を記載した書面の交付並びに原本還付請求をした原本の還付を求めます。

送付先:代理人の事務所

不動産の表示(省略)

 なお、ここでいう「代理権権限証書」とは、委任状のことではありません。後見の登記事項証明書のことなのでご注意ください。 

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