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 戦前に亡くなった祖父名義の土地があります。
土地の名義を自分名義に変えるには、誰の同意が必要でしょうか?

 相続を考える際、気をつけなくてはならないのは、相続手続きを今現在行う場合でも、今現在の制度ではなく、相続が発生した当時(=被相続人が亡くなった時)の制度を前提に手続きを進める必要があるということです。相続が発生したのが戦前である場合、たとえ今、相続手続きを行うとしても、戦前の相続制度を前提として、手続きをする必要があるのです。

 戦前の相続は、家制度を前提として、戸主が前戸主から財産を引き継ぐ制度でした。

 この、基本的に、全ての財産が戸主から戸主に引き継がれるという制度を前提に、今、相続登記を行うには、誰の同意が必要なのでしょうか?

 結論から言うと、戸主であったおじいさん名義の土地は、新しい戸主に単独で引き継がれ、新戸主以外の子どもには相続権はありません。従って、新戸主以外の人の子孫の方々の同意は必要ないということになります。現在の相続制度を前提とするのとは、全く違う結論になるので注意が必要です。 

今回の設例

祖父 調布栄一郎 昭和16年9月10日死亡 不動産の登記名義人

父  調布栄太郎 栄一郎の長男(新戸主)平成31年4月20日死亡

母  調布花子  栄太郎の配偶者 存命

叔父 調布栄次郎 栄一郎の二男 存命

叔父 調布栄三郎 栄一郎の三男 平成25年10月10日死亡

自分 調布勇一  栄太郎の長男

弟  調布勇次  栄太郎の二男 存命

従弟 調布一夫  栄三郎の長男 存命

栄一郎名義のままになっている土地を勇一名義にしたい

 上記の設例のように、祖父栄一郎さん名義のままになっている土地を勇一さん名義に変えるのにはどうしたらよいでしょうか?言い方を変えると、誰と話し合い、誰の同意をもらえばいいでしょうか?

 今回のケースでは、栄一郎さんの相続(一次相続)、栄太郎さんの相続(二次相続)と2回の相続が発生しています。

 まずは、一次相続について考えてみます。

  栄一郎さんが亡くなったのは昭和16年ですから、戦前の家制度があった時代です。

 家制度のもとでは、戸主から戸主に財産が引き継がれるのが基本です。

 この例では、旧戸主である栄一郎さんから新戸主である栄太郎さんに家の財産全てが引き継がれることになります。このような相続を家督相続と呼びます。

 家督相続が行われた時代の制度では、現在の制度のように配偶者や子ども全員が相続人になるわけではありません。相続人になるのは新たに戸主となる人だけです。

 今回の例では、栄一郎さんの二男である栄次郎さん、三男である栄三郎さんは相続人になりません。

 そして、既に触れたように、相続手続(相続登記)を行う場合、手続きを行うときの制度が適用されるわけではなく、相続が発生したときの制度が適用されます。

 今回の例でも、登記をするのは現在ですが、相続が発生したのは戦前のため、家督相続の制度が適用されます。

 従って、一次相続については、たとえ登記をするのが現在であっても、家督相続を原因とする所有権移転登記を行い、相続人となるのも、新戸主である栄太郎さんだけとなります。

 栄三郎さんは既に亡くなっていますが、栄三郎さんには相続権がないので、栄三郎さんのお子さんにも、栄一郎さん名義の財産の相続権はないことになります。

 このように、栄一郎さん名義の土地が残っている場合、一見、その子孫全員に権利があり、子孫全員の同意が必要にも見えてしまうのですが、家督相続がなされる結果、栄太郎さんの子孫にしか権利がないことになります。

 

 次に、二次相続について考えてみます。一次相続では、戸主の地位を引き継いだ栄太郎さんに全ての財産が引き継がれました。従って、昭和16年の時点で、土地の権利は全て、栄太郎さんに移っているという前提で、二次相続について考えてていきます。

 二次相続が発生したのは、現代、平成31年4月です。従って、家督相続ではなく、現在の相続制度をもとに、相続権のある人を確定すればよいことになります。

 そうすると、栄太郎さんの相続人は、配偶者と子ということになり、調布花子さん、調布勇一さん、調布勇次さんが相続人となります。

 

 そして、一次相続と二次相続通算で考えると、調布花子さん、調布勇一さん、調布勇次さんが相続人となります。

 従って、祖父栄一郎さん名義の土地を勇一さん単独名義にしたいときは、調布花子さん、調布勇一さん、調布勇次さんの3名で遺産分割協議を行い、花子さんと勇次さんの同意が必要になるということになります。

 

 これで答えが出たことになりますが、どのような登記申請をすればよいかも見てみたと思います。

 今回の登記申請書は次のようになります。

登記の申請書

登記申請書

登記の目的      所有権移転

原因   昭和16年9月10日調布栄太郎家督相続、平成31年4月20日相続

相続人      ( 被相続人 調布 栄一郎)

  東京都調布市深大寺二丁目3番地7

  調布 勇一

添付情報

登記原因証明情報(原本還付)    住所証明書    代理権限証書

課税明細書

令和元年5月1日申請 

東京法務局 府中支局 御中

 代理人      東京都調布市深大寺北町二丁目29番地11

          グランパルクノース102

                    司法書士 向後 弘之

                連絡先の電話番号 042-444-7960

課税価格      金20,000,000円    

登録免許税      金80,000円

その他事項   送付の方法により登記識別情報を記載した書面の交付並びに原本還付請求をした原本の還付を求めます。

送付先:代理人の事務所

不動産の表示(省略)

 

  今回の設例は、家督相続、かつ、数次相続でしたが、栄一郎さんが存命の場合の家督相続登記はどのようになるでしょうか?まずは、登記申請書を見てみたいと思います。 

登記申請書(家督相続の登記のみをする場合)

登記申請書

登記の目的      所有権移転

原因      昭和16年9月10日 家督相続

相続人      ( 被相続人 調布 栄一郎)

  東京都調布市深大寺二丁目3番地7

  調布 栄太郎

添付情報

登記原因証明情報(原本還付)    住所証明書    代理権限証書

課税明細書

令和元年5月1日申請 

東京法務局 府中支局 御中

 代理人      東京都調布市深大寺北町二丁目29番地11

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登録免許税      金80,000円

その他事項   送付の方法により登記識別情報を記載した書面の交付並びに原本還付請求をした原本の還付を求めます。

送付先:代理人の事務所

不動産の表示(省略)

 登記原因が「相続」ではなく、「家督相続」となる以外は申請書の記載や添付書類に違いはありません。

 課税価格が固定資産税評価額であり、登録免許税はその1000分の4の額になります。申請書例の場合、固定資産税評価額が2000万円なので、その0.4%である80,000円が登録免許税の額になります。

 この点も、通常の相続登記と変わりません。

 なお、登記原因が発生した昭和16年の価格が基準になるのではなく、登記をする時点の評価額が登録免許税計算の基準となります。

※今回のお話では、話を分かりやすくするために、「戦前」という言葉を使い、戦前と戦後で制度を区別してご説明しました。しかし、実際は、戦後すぐに旧制度から新制度に改められたわけではありません。家督相続と相続のどちらが適用されるのか分かれるのは、正確には、昭和22年5月2日までは家督相続、昭和22年5月3日からは現在と同様の相続に分かれることになります。

 

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